データドリブン:「データドリブンになる」とはどういう意味か?
データドリブン組織であることの落とし穴
プロダクトの基盤

データドリブン組織であることの落とし穴

Last edited: 9月 17, 2021 Published: 9月 17, 2021
Anya Pratskevich Product Marketing @ Mixpanel

2006年に、Facebookは「ニュースフィード」と呼ばれる新しい機能を発表しましたが、非常に不評でした。

当時のFacebookのウェブサイトのユーザー数は1,200万と小さなものでしたが、この新機能に対するユーザーの抗議は十分な大きさでした。この導入について、FacebookのエグゼクティブであるAdam Mosseri氏は、裏付けるデータがなく、ユーザーの批判があったにもかかわらず、チームが信念を曲げなかったのは、経験と勘が良い戦略だと示していたからだと2010年に述べています。

その信念は実を結ぶ結果となります。ニュースフィードは、サイト上のトラフィックとエンゲージメントを高める主な要因となり、Facebookを全世界で20億人以上のユーザーを抱える企業に成長させました。 この事例はデータドリブン (data-driven) であるよりもデータインフォームド (data-informed) であることが重要であることを示しています。

データドリブンとは?データインフォームドとの違いは?

何らかの調査を実施するとき、通常はデータと経験(自分自身と同僚の経験)を組み合わせて結論を導き出します。個人の経験と勘に頼り過ぎると偏った結果になります。あらゆる分野の学者たちがデータと同僚の分析結果を用いて研究・調査の裏付けを行うのはそのためです。

言うまでもなく、学術研究は何十年とまでいかなくても多くの年数を要するのに対して、経営判断は素早く行う必要があります。意思決定プロセスにおいては、経験や勘よりも、データにより多くの比重をかけがちになります。このことを、データドリブンになるといいます。 それに対して、データインフォームドになるとは、経験とデータの中庸を得て、その2つを組み合わせて意思決定を行うということを意味します。このアプローチが、より良い意思決定、最終的により良いプロダクトにつながる理由をいくつか以下に示します。

可変要素はデータのみではない

航空券の予約をする方法について考えてみてください。価格のみに基づいて予約しますか?もちろん、他の要素も考慮しますよね。乗り継ぎ待ちで一泊する必要がある、受託手荷物手数料がかかる、遠く離れた空港から出発する、といった条件がある「好条件の取引」は、そうした可変要素にかかる費用を加算すると、必ずしも好条件だとは言えません。大部分の旅行者がそうであるように、あなたも価格に加えて、その他多くの可変要素を考慮して、どの航空券を予約するかを決めます。

同様に、プロダクトデザインも、データ以外の多くのことを考慮すべきです。あなた、およびあなたのチームは、「どのようなビジネス環境か?」という質問について考える必要があります。プロダクトについてユーザーからポジティブなフィードバックまたはネガティブなフィードバックがあったか?競合他社はどのようなことをしているか?遅れを取っていないか?こうした点を考慮することは当たり前のことのように思えますが、データを重視するあまり、これらを過小評価していないかどうか確認することが重要です。

遅行指標に注意する

データドリブン組織はデータを完全に信頼することで、ときに間違った指標に依存する危険を冒すことになる場合があります。測定しやすいが事後でないと適切な決定を下したかどうかが分からない、遅行指標に基づいて意思決定を下す羽目になります。

新しいプロダクト機能をローンチしたいと思っているが、その機能がプロダクトを操作しにくくするというユーザーからのフィードバックが散見されるとしましょう。1週間にわたって簡単なA/Bテストを実施したところセッションに変化は見られなかったため、本番環境でアップデートをしました。最初の数週間のチャーン率は安定していましたが、数ヵ月後には増加し、アップデートが原因であることがユーザーレビューから分かりました。

何が起こったのでしょうか?A/Bテストからのセッションデータは遅行指標であったのと、アップデートの影響を正確に評価するのに1週間は十分な長さのテスト期間ではありませんでした。この場合、最初のユーザーからのネガティブなフィードバックが先行指標であり、アップデートをする前に、それをもっと考慮する必要がありました。

極大値を得る

データ分析ソフトウェアを提供しているソフトウェア会社、RJmetrics(現在はMagentoの傘下)の創設者である、Robert Moore氏は、2014年に、最初のウェブサイトの見出しを決めるにあたって「データに決定を下させる」アプローチを取ったと述べています。SEO検索によると、「eコマースアナリティクス」というキーワードは、トラフィックが高く競争性が低いことを示していたので、それを選ぶことにしました。ところが、その選択が最終的に企業のアイデンティティにどのような影響を与えるかを考慮しませんでした。その後の1年間、同社の対象顧客はeコマースに大きく傾き、同社の市場の主要セグメントを疎外する結果となりました。1つのデータドリブンな意思決定が、軌道修正に何年も要する結果を導き出したのです。

このことを「極大値」を得るといいます。改善ではあるものの長期的な事業目標を達成できない結果のことです。

データインフォームドのアプローチを取ることは、プロダクトの可能性および事業への影響といった全体的な状況を理解するために、より広い視点から市場、ユーザー選好、競合他社ベンチマーキングを捉えたうえで、部分的にデータに基づいて意思決定を行うことを意味します。特定の指標に絞り込み過ぎると、機会を逃す、あるいは高価な軌道修正を要することになる可能性があります。

プロダクトデザインに対してデータインフォームドのアプローチを取る

最適化に焦点を当て過ぎるデータドリブンな組織は、極大値にはまって動きが取れなくなる可能性があります。なぜなら、データドリブンな決定を追求するあまり、創造性を放棄してしまうからです。創造性に起因する内在リスクをデータが防止してくれるという考えは、期待をかき立てるものですが、嘘の約束です。

プロダクトライフサイクルでは、イテレーションだけでは不十分であり、破壊的な変化でしかプロダクトを次のレベルに引き上げることができない状況がしばしばあります。そうした破壊的な変化は、創造性を活かしたイノベーションなしに起こすことはできません。「データが示しているから」というだけでアイデアを押し通すことは、安心感と実利価値を得られるような気がしますが、プロダクトの真の潜在性をもみ消すことになります。

出会い系アプリのHingeは、この点をよく理解しています。Mixpanelのユーザー分析からの定量的データとフォーカスグループやアンケートからの定量的データを組み合わせることで、Hingeは 、アプリを再設計して出会いの仲介率を高めました。際限なくスワイプをしていたのではデートの回数は増えないことをデータは示していました。そのインサイトに基づいて、カジュアルなデートをするのではなく、有意義な関係を築くために人々をつなぐことに焦点を当てた新しいプロダクトを考案することになりました。その結果、ユーザーが各自の個性をもっと打ち出せるように、人気のあったプロフィールのスワイプ機能の代わりに、拡張されたユーザープロフィールと「コンテンツにいいね!を付ける」機能をアプリに導入しました。このデータインフォームドな再設計により、性行為目的の出会いではなく、長期的な関係に焦点を当てたアプリとして、Hingeは競合他社と一線を画すことができるようになりました。

データドリブン対データインフォームド

データインフォームドであることは、創造性とイノベーションをかき立てるために、データからインサイトを引き出すのに役立つ経験と指標との間のバランスを保つことを意味します。データインフォームドになることで、データだけではなく、価値のある独特な経験によっても裏付けられた価値の高いプロダクトを提供する力をチームは得ることができます。